2003.10.27 東京都三鷹
――『ラジオの仏』がとうとう発売されますが、最初どんな感じで話があったんですか。
『ラジオの仏』を出すに至るきっかけは、2000年に早稲田大学のイベント(*1)で プリントアウトした夢日記をテーブルに貼り付けて展示したのがはじめかな。
――出版しようって話になるまでどういった経緯があったんですか。
まず吉田くん(*2)が作った『Choice&Place』っていう雑誌の第2号に一部載ったんだよね。 そのあともいろいろ話があったんだけど、結局細谷くん(*3)と「作りましょう」って話になって。
――当初は自費出版の予定だったんですよね。
そう、なんとか出したいね、っていう話だった。今回、こうやって平凡社から出ることになったけど。
――日記はどのくらい継続してつけられてるんですか。
ふつうの日記はこの8年くらい書いてる。夢日記に関しては飛び飛びで、いちばん古いのは'75年だから・・・。 高校生のときだね。高1かな。
――夢日記の原稿を拝見していて思ったんですけど、記述が非常に細かいですね。
それはコンスタントにつけてると、夢の内容をだんだん覚えられるようになって 最終的には夢の中で日記をつけてたりする。そんなことしても無駄なんだけど(笑)
――起きたらすぐメモできるように、枕元にノートがあったりするんですか。
いまは、仕事部屋に行ってPCで書いちゃうね。大学生のときは大学ノートに書いてたよ。 '88年ごろ初めてワープロ買って、自分の書いた夢日記が活字になって出てくるのがとても楽しかった。 そのころのものは紙で残ってたから、スキャンして『ラジオの仏』にも入ってます。
――PCということばでちょっと思い出したんですけど、 マンガを書かれていて、手書きからPCで書くことへの変化で何か快感があったりしましたか。
そうだなあ。同じ背景を書かなくてよくなった、ってことだね。 それはひとりですべて書きたくなった、っていうのと同時期なんだけどね。 ちょうど『ありがとう』を描いてる終わりの頃で。
――それは自分で作品全体をコントロールしたい、っていう欲望なんでしょうか。
マンガ家は誰しもそういうのありますからね。 アシスタントが書いた建物をあと右に5ミリ動かしたいとか(笑)。 そういうのが積もり積もってね、最大のアシスタントをマックにしたの。
――ご自分の夢日記を出版されるってことになってどう思われましたか?
お金の匂いのしないものを出していいのかな、ってちょっと思った。 夢は共有する前提をつくるのが難しいと思うからね。つまり、どのくらい売れるのか?と(笑)
――マンガであれば、エッチな感じとか、ある程度はっきりした読者の欲望があるってことですか?
自分の「描きたい」っていう気持ちと、求められるものがある程度重なり合うからね。 もちろん、それだけじゃないんだけど。
――そう考えると、今回の『ラジオの仏』は、非常に趣味的な側面が強い作品とも言えますか。
うん、いままででいちばん発売が待ち遠しい本だからね(笑)。 自分の作品が出るのが待ち遠しい、っていうのはいい感じだね。
――それでも、やはり商品として提示されるわけですから、苦労される部分もあると思います。
字の本ってことでは『テレビを消しなさい』があるけれど、あれはコンセプチュアルなものではない。 ただ、今回は「夢」っていうコンセプトがあって、夢日記のなかからおもしろいと思うものを選り抜いているし。 久々に、手描きで挿絵を描いているしね。そういった面では、考えてる部分もあるね。
――夢日記って、ぼくも以前書いていたことがあるんですけど、自然と加工されてしまうものですね。
実際、かなり加工はしてると思う。ことばでない感覚をことばにしてるんだから、 目を覚まして日記を書き始めてる時点からかなり加工はしているわけ。 それを人に読んでもらうってことでね、さらに加工してますよ。
――夢の中で感じた、ことばにならない感覚はどうしても抜け落ちちゃいますしね。
それもあるし、夢の中だと、時間の感覚がないからね、結局、時系列も整理してしまう。 マンガのストーリーをつくるのといっしょだね。バラバラになっているピースを必要な部分にはめこんでいく。 夢日記を書いていると、そういった作業がいつも自然にあるね。
――日本では、日記文学、私小説といった表現の流れがありますけど、お好きな日記作品って何かありますか?
永井荷風の『断腸亭日乗』を読んで、 日記書こうって思ったのがさっき言った8年前。 '95年くらいだね。これはゼッタイ、誰にも見せないけどね。
――実際に読んで「日記っておもしろいもんだな、じゃあ書いてみようか」って感じですか。
そうだね。そう思って書き始めた。『断腸亭日乗』、これはいいですよ。 終わりのほうは、荷風の体調がだんだん悪くなってきて、日付や、天気だけになっちゃう。
――書けなくなっちゃうんですね。
うん。人間ってだんだんフェイドアウトしていくもんなんだ、みたいな気持ちになったな。 あとは漱石の『夢十夜』とか、内田百間も影響あるかな。